大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)2083号 判決

被告人 秋山こと李克浩

〔抄 録〕

(一) 所論(「事実誤認」というが、法令適用の誤りの主張と解される。)は、遠山和己らが被害車両に塗布した人糞は水洗いで流され、同車の汚れは除去されたから、遠山らの行為は、「自動車の効用を損なわせる行為」とはいい難く、単なる嫌がらせに過ぎないから、器物損壊罪には該当しない、と主張する。

(二) しかし、刑法二六一条にいう「損壊」には、物理的な毀損を伴わないものの、その器物の清潔感や美観を害し、事実上又は感情上器物の効用を阻害することも含まれるものと解されるところ、人糞を器物に塗り付けることは、その量が極めて僅かで、容易に除去できる態様であるなど特段の事情がない限り、器物の清潔感や美観を害し、臭気や人糞自体に対する嫌悪感等からその器物をそのまま使用することを阻害するものといえる。そして、関係証拠によれば、本件は、嫌がらせの手段として犯されたもので、人糞を洗浄すれば被害自動車に痕跡や傷等の物理的な変更毀損を生じさせるものではなかったとはいえ、紙コップ三個分程度の量の人糞を、被害車両右側の、運転席及び運転席側後部座席の各ドアハンドルの内側に押し込むように塗り付け、フェンダー裏側にも車両先端から後端にかけて、特にタイヤハウス部分には相当量を塗り付けたものであることが認められ、被害車両所有者の妻原清美の原審証言からも明らかなように、被害車両の使用者にくさい臭いを感じさせ、嫌悪感を生じさせたものであって、被害車両に物理的な変更を加えたものといえる。被告人らの行為は、被害車両の清潔感を害している上、右臭気や人糞が車両を開ける際触れる機会の多いドアハンドルに塗布していることからしても、そのままの状態で被害車両を使用することを阻害するに足るものであったと認められる。本件で人糞が塗布された場所に一見しては分かりにくいフェンダーの裏側部分が含まれていたことを考慮しても、右結論は変わらない。

また、前記原の原審証言によれば、人糞やその臭気を除去し、人糞自体に対する嫌悪感等を払拭するために一時間から一時間半の時間をかけて被害車両を自ら洗浄した上、ガソリンスタンドで機械洗浄してもらったことが認められ、人糞を除去して使用できる状態にもどすことが容易でなかったことは明らかである。確かに、原らは、本件後も右車両を使用し続けているが、少なからぬ労力、時間、費用をかけて右車両を洗浄した後のことであるから、その故に、本件で被害車両の効用が阻害されたことが否定されることにはならないし、本件の被害が軽微であるともいえない。

そうすると、被告人らの行為が器物損壊罪に該当するとした原判決の判断は、是認することができ、原判決に所論のような法令適用の誤りはない。

(龍岡資晃 植村立郎 田邊三保子)

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